最高裁判所第一小法廷 平成11年(許)35号 決定
主文
一 原決定を破棄し、原々決定に対する抗告を棄却する。
二 抗告手続の総費用は相手方の負担とする。
理由
抗告代理人村田光男の抗告理由について
一 記録によれば、本件の経緯は次のとおりである。
1 本件の本案事件(東京地方裁判所八王子支部平成八年(ワ)第二三六九号損害賠償請求事件)は、抗告人の会員である相手方が、抗告人の理事であった者らに対し、理事としての善管注意義務ないし忠実義務に違反し、十分な担保を徴しないで原々決定別紙融資目録記載の各融資(以下「本件各融資」という。)を行い、抗告人に損害を与えたと主張して、信用金庫法(以下「法」という。)三九条において準用する商法二六七条に基づき、損害賠償を求める会員代表訴訟である。
2 本件は、相手方が、理事らの善管注意義務違反ないし忠実義務違反を証明するためであるとして、抗告人が所持する原々決定別紙文書目録記載の本件各融資に際して作成された一切の稟議書及びこれらに添付された意見書(以下、これらを一括して「本件各文書」という。)につき文書提出命令を申し立てた事件であり、相手方は、本件各文書は民訴法二二〇条三号後段の文書に該当し、また、同条四号ハ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たらない同号の文書に該当すると主張した。
二 原々審は、本件各文書が民訴法二二〇条三号後段の文書に該当せず、同条四号ハ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たるとして、本件申立てを却下したが、原審は、次のとおり判断して、原々決定を取り消し、本件を原々審に差し戻した。
信用金庫が所持する稟議書は、本来対外的利用を予定していないものであるが、事務処理の経過と理事等の責任の所在を明らかにすることがその作成目的に含まれている以上、会員代表訴訟の訴訟資料として使用されることはその属性として内在的に予定されているということができるのであり、また、信用金庫自身が理事の責任迫及の訴えを提起するときにはこれを証拠として利用することに特段制約があるとは考えられないのであるから、会員の代表訴訟の提起が正当なものである限り、信用金庫が右訴訟を提起した会員に対して稟議書が内部文書である旨主張することは許されない。したがって、本件申立てに対しては、本件各文書の訴訟資料としての必要性や重要性を検討して民訴法二二〇条各号の文書といえるか否かを判断すべきところ、原々決定は、これをせずに本件各文書の提出義務を否定して申立てを却下したものであるから、取消しを免れない。
三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
記録によれば、本件各文書は、抗告人が本件各融資を決定する過程で作成した貸出稟議書であることが認められるところ、信用金庫の貸出稟議書は、特段の事情がない限り、民訴法二二〇条四号ハ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たると解すべきであり(最高裁平成一一年(許)第二号同年一一月一二日第二小法廷決定・民集五三巻八号一七八七頁参照)、右にいう特段の事情とは、文書提出命令の申立人がその対象である貸出稟議書の利用関係において所持者である信用金庫と同一視することができる立場に立つ場合をいうものと解される。信用金庫の会員は、理事に対し、定款、会員名簿、総会議事録、理事会議事録、業務報告書、賃借対照表、損益計算書、剰余金処分案、損失処理案、附属明細書及び監査報告書の閲覧又は謄写を求めることができるが(法三六条四項、三七条九項)、会計の帳簿・書類の閲覧又は謄写を求めることはできないのであり、会員に対する信用金庫の書類の開示範囲は限定されている。そして、信用金庫の会員は、所定の要件を満たし所定の手続を経たときは、会員代表訴訟を提起することができるが(法三九条、商法二六七条)、会員代表訴訟は、会員が会員としての地位に基づいて理事の信用金庫に対する責任を追及することを許容するものにすぎず、会員として閲覧、謄写することができない書類を信用金庫と同一の立場で利用する地位を付与するものではないから、会員代表訴訟を提起した会員は、信用金庫が所持する文書の利用関係において信用金庫と同一視することができる立場に立つものではない。そうすると、会員代表訴訟において会員から信用金庫の所持する貸出稟議書につき文書提出命令の申立てがされたからといって、特段の事情があるということはできいなものと解するのが相当である。したがって、本件各文書は、「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たるというべきであり、本件各文書につき、抗告人に対し民訴法二二〇条四号に基づく提出義務を認めることはできない。また、本件各文書が、「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たると解される以上、民訴法二二〇条三号後段の文書に該当しないことはいうまでもないところである。
四 以上によれば、原審の前記判断には、裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるというべきである。この趣旨をいう論旨は理由があり、原決定は破棄を免れない。そして、前記説示によれば、相手方の本件申立てを却下した原々決定は正当であるから、これに対する相手方の抗告を棄却することとする。
よって、裁判官町田顯の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
裁判官町田顯の反対意見は、次のとおりである。
私も、金融機関の貸出稟議書は、特段の事情がない限り民訴法二二〇条四号ハ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たると解するが、本件における貸出稟議書については、右の特段の事情があり、証拠としての必要性が認められる限り、抗告人は、文書提出義務を負うと解すべきものと考える。その理由は、次のとおりである。
本件の本案事件は、抗告人の会員である相手方が、抗告人の理事であった者らに対し、本件各融資につき善管注意義務違反又は忠実義務違反があったとして、抗告人のため、損害賠償を求める会員代表訴訟である。
ところで、信用金庫は、会員の出資による協同組織の非営利法人であり(法一条)、会員は、当該信用金庫の営業地域内に住居所又は事業所を有する者(一定規模以上の事業者を除く。)及びその地域内において勤労に従事する者で、定款で定めるものに限られ(法一〇条)、加入及び持分の譲渡については信用金庫の承諾を要し(法一三条、一五条)、定款で定める事由に該当する場合には総会の議決によって除名されること(法一七条三項)、信用金庫は、預金等の受信業務は会員以外の者からも受け入れることができるが、貸出業務は原則として会員に対してのみ行うことができるものとされていること(法五三条)、会員は出資口数にかかわらず平等に一箇の議決権を有すること(法一二条)など、会員による人的結合体たる性格を帯有する。
そして、会員代表訴訟は、右のような性質を持つ会員が、信用金庫のため(法三九条、商法二六七条二項)、その任務を怠った理事の責任(法三五条)を追及することを目的とするものであるから、これらを全体としてみれば、信用金庫の会員代表訴訟は、協同組織体内部の監視、監督機能の発動であると解するのが相当である。
金融機関の貸出稟議書は、当該金融機関が貸出しを行うに当たり、組織体として、意思決定の適正を担保し、その責任の所在を明らかにすることを目的として作成されるものと解されるから、貸出稟議書は、貸出しに係る意思形成過程において重要な役割を果たすとともに、当該組織体内において、後に当該貸出しの適否が問題となり、その責任が問われる場合には、それを検証する基本的資料として利用されることが予定されているものというべきである。
信用金庫における会員代表訴訟の前記の性質と貸出稟議書の右のような役割よりすれば、信用金庫の貸出稟議書は、会員代表訴訟において利用されることが当然に予定されているものというべきであり、本件のように理事の貸出行為の適否が問題とされる信用金庫の会員代表訴訟においては、当該貸出しに係る貸出稟議書は、「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たらないと解すべき特段の事情があって、民訴法二二〇条四号の規定により、その所持者である抗告人に対し、提出を命ずることができるものと解すべきである。
もっとも、相手方は、本件各融資に際して作成された一切の稟議書及びこれらに添付された意見書の提出を求めるものであるところ、これらは本来外部に開示されることが予定されていないものであるから、その提出を命ずるに当たっては、当該訴訟の判断のため真に必要なものに限られるべきことは当然であって、受訴裁判所としては、証拠としての必要性について慎重な判断をしなければならない。
よって、これと同旨の原決定は正当であって、本件抗告は理由がないからこれを棄却すべきである。
(裁判長裁判官井嶋一友 裁判官藤井正雄 裁判官大出峻郎 裁判官町田顯 裁判官深澤武久)
抗告代理人村田光男の抗告理由
○ 許可抗告申立書記載の抗告理由
原決定は、高等裁判所の判例に相反する判断をした。
すなわち、稟議書について、東京高等裁判所(第二民事部)は、平成一一年七月一四日に、銀行の稟議書は民事訴訟法二二〇条三号後段の文書に該当せず、また同条四号ハの文書に該当するものとして文書提出命令申立を却下する決定をしている(金融法務事情一五五四号八〇頁以下)。さらに、福岡高等裁判所(第四民事部)は、平成一一年六月二三日に、同じく、銀行の稟議書は民事訴訟法二二〇条三号後段の文書に該当せず、また同条四号ハの文書に該当するものとして文書命令申立を却下する決定をしている(金融法務事情一五五七号七五頁以下)。
これらに対し、原決定は、申立人の稟議書について、「民事訴訟法二二〇条三号後段の法律関係文書には当たらない」としつつも、「会員の代表訴訟の提起が正当なものである限り、信用金庫が右訴訟を提起した会員に対して稟議書が内部文書である旨主張することは許されず、本件文書中本件訴訟追行に必要な文書については同条四号により相手方に文書提出義務を認めるべきである」と判断している。これは、抗告裁判所である高等裁判所の判例に相反している。
○ 平成一一年一〇月一八日付許可抗告申立理由補充書記載の抗告理由
一 東京高等裁判所第一七民事部の原決定には次の三点の問題がある。
第一点は次のとおり。
原決定は同決定書の六頁で「文書提出命令は、裁判所が民事事件の審理に当たり適正な事実認定をするため必要な文書を証拠として確保する方法として認められたものであるが、記載内容が多岐にわたる文書についてその提出を命ずると、不必要又は無関係な部分までもが訴訟関係者の知るところとなり、証人義務と比較して所持人に与える影響が大きい上、他の目的で文書提出命令の申立てがされる危険性があることや、広く文書提出命令が発付されることになると予め文書提出命令に備えて虚偽の文書を作成することにもなりかねず逆に弊害が生じることも考えられることから、旧法においては挙証者と所持人の所持する文書との間に特別の関係がある等一定の要件を満たす場合に限定して文書の提出義務を課したものであり、四号を新設して提出文書の範囲を拡大した現行法においてもこのような基本的制約が変わることはない。」(A)と述べ、同七頁及び八頁で「右のような改正の趣旨、目的等に照らすと、民事訴訟法二二〇条一号ないし三号の規定の解釈において文書提出義務の一般化といった観点を持ち込むことはできないから、同条三号後段において提出義務があるものとされる法律関係文書は、挙証者と文書の所持者との間の法律関係そのものについて作成された文書に限られず、右法律関係に関連して作成された文書や右法律関係に関連する事項を記載した文書をも含むが、専ら所持者の利用に供するために作成された文書は対外的な利用を想定しておらず、これを含まないというべきである。」(B)と述べ、同九頁で「裁判所が適正な事実認定をするために必要と認めるすべての文書が法律関係文書に含まれるとの解釈を採ることはできない」と述べている。
その上で原決定は、稟議書について、同九頁及び一〇頁で「一般に稟議書(これに添付された意見書を含む。以下同じ。)は、組織内部の意思決定の過程において、検討された事項とその内容、検討の結果、指示内容等を記載することにより意思決定の経過を明らかにするとともに意思決定の合理性を担保し、合わせて関与者及び責任の所在を明らかにする等の目的により作成されるものであり、専ら当該組織内部の利用を目的として作成されているものであって、意思決定の過程又は意思決定の後において対外的関係で作成される文書とはその作成の趣旨目的を異にしているといわなければならない。このような趣旨で作成されるものである限り、稟議書は専ら当該組織内部の利用を目的として作成された文書であり、民事訴訟法二二〇条三号後段の法律関係文書には当たらないということができる。そして、この観点で見る限り、抗告人が提出を求めている本件文書は、抗告人と相手方金庫との間の法律関係について作成された文書ではなく、相手方金庫が本件融資の可否を検討し融資を決定実行するについて内部的に作成した文書であるということができるから、文書提出命令の判断においては右一般の稟議書の場合と同様に解するのが原則であると考えられる。」(C)と述べたものの、同一二頁で「このような信用金庫と会員との関係及び会員が信用金庫のために理事の責任追及の訴訟を提起するという会員代表訴訟の性格からすると、会員の右訴訟提起が正当なものである限り、会員は自らが有する監督権に基づいて信用金庫のために訴訟を追行するものであり、信用金庫が所持する文書を右訴訟の資料として利用する正当な利益を有しているということができる。」(D)と述べている。
しかし、D記載中の「会員の右代表訴訟提起が正当なものである限り」との限定の趣旨は曖昧であり、この点につき基本事件である会員代表訴訟における第三者である許可抗告申立人は大きな危惧を覚える。「代表訴訟提起が正当」との文言が、訴状及び証拠方法において形式的には代表訴訟の体裁をなしていることだけの意味だとすれば、その「正当」性は、文書提出命令の受け手でありその訴訟との関係では第三者である許可抗告申立人にとっては何ら提出命令を正当付けるものでは有り得ない。また、「代表訴訟提起が正当」との文言が、代表訴訟の実質的内容が正当なことを意味しているのであれば、訴訟の内容が正当であるか否かを判定するための一手段として文書提出命令があることからして、循環論法に陥っており、全く説得力を持ち得ない。
第二点は次のとおり。
原決定は、同一三頁で「また会員が自己の個別的利益を目的として会員代表訴訟を提起する等の弊害や、信用金庫の内部資料が訴訟資料とされることにより信用金庫の秘密や情報が漏洩する危険性があり信用金庫の将来の経営に少なからず支障を来すといったことが考えられないではないが、そのような弊害や危険性等は、信用金庫法三九条、商法二六七条五項により会員に担保の提供を命じ、あるいは訴訟の追行に必要な資料を厳選すること等の方法により対処すべきであると考えられるから、これらを理由として信用金庫が文書の提供を拒否することは、会員代表訴訟制度の趣旨を没却し会員の正当な監督権の行使を妨げるものとして容認することができない。」(E)と述べているが、基本事件である会員代表訴訟における第三者である許可抗告申立人の文書開示との関係では、会員に担保の提供を命じたところで何ら意味はなく(八王子信用金庫に同担保金収受の権利はない)、「訴訟の追行に必要な資料を厳選する」と言ってもその基準が示されていない。右に指摘した同九頁の「裁判所が適正な事実認定をするために必要と認めるすべての文書が法律関係文書に含まれるとの解釈を採ることはできない」との指摘と整合する基準は何ら示されていない。
第三点は次のとおり。
原決定は、同一五頁及び一六頁で「したがって、信用金庫が所持する稟議書は、これが前記趣旨で作成される内部文書であり本来対外的利用を予定していないものであるとしても、事務処理の経過と理事等関与者の責任の所在を明らかにすることがその作成目的に含まれている以上、信用金庫自身が理事の責任を追及する資料として利用すること及び会員代表訴訟の訴訟資料として使用されることはその属性として内在的に予定されているということができ、また信用金庫自らが理事の責任追及の訴訟を提起するときには稟議書を証拠として利用するのに会員が信用金庫のために会員代表訴訟を提起するときにはその利用を認めないというのは自己矛盾に帰するといわなければならないから、会員の代表訴訟の提起が正当なものである限り、信用金庫が右訴訟を提起した会員に対して稟議書が内部文書である旨主張することは許されず、本件文書中本件訴訟の追行に必要な文書については同条四号により相手方に文書提出義務を認めるべきことが考えられる。」(F)と述べているが、その中の「信用金庫自らが理事の責任追及の訴訟を提起するときは稟議書を証拠として利用するのに」との記述には誤認がある。稟議書及び意見書には必ず顧客の秘匿されるべき固有情報の記載があり、また信用金庫の経営ノウハウが記載されているのが一般である。とすれば、信用金庫が理事に対して訴訟を提起する必要がある場合でも、信用金庫が公開の法廷に提出証拠として稟議書及び意見書を使用することはない。顧客一般の固有情報を顧客の了解なく信用金庫自ら開示はしないという、信用金庫への顧客の信頼の保護の観点と、信用金庫の経営ノウハウの流出防止の観点から、稟議書及び意見書そのものを公開の法廷に提出することは有り得ない。他の資料により代用することが必定である。
なお、原決定が、同一五頁及び一六頁で述べている「本件文書中には意見書を含め複数の異なる文書が含まれていることが考えられ、本件訴訟の資料としての必要性や重要性の有無、程度も様々であることが予想される上、これが開示されることにより前記のような相手方金庫の不利益が発生することも考えられることからすると、文書提出命令を発する場合には、既に取調べ済みの証拠と対比しつつ個々の文書ごとに証拠としての必要性及び民事訴訟法二二〇条各号の該当性を十分検討する必要があるといわなければならない」(G)との点は妥当な考え方と思料する。
二 そもそも、基本事件の融資に関しては、基本事件の甲一号証である調査委員会作成の報告書に記載されているとおり、調査委員会は担当理事らに賠償責任ありとの判断には至っていない。調査委員会は、未回収金発生という結論が見えた後の事後調査であることから、極めて厳しい、事柄によっては独断にも近い判断を随所に示しているものの、最終的には、「幸い貸出推移の過程に於いて不祥事的取扱は感じられない」として経営刷新のみを求めている。なお、独断に近い判断の例としては、許可抗告申立人が当事者ではない「協定書六条」に異常にこだわり、「特に桑原を債務者とし設定した根抵当権は、地主が不承知であると思われる」との判断を下しているが、これは根拠のない、言い過ぎの誤断である。ちなみに、許可抗告申立人が地主から提供を受けた担保不動産は、別紙の「八王子信用金庫管理部管理課」作成の「国際開発(株)・桑原産業(株)・国際建設(株)に対する既回収実績」が示すとおり、バブル崩壊による減価を免れ得なかったものの、地主による「不承諾」の主張によって手続きが停止することなく、全て任意売却乃至は競売により融資金回収に充てられた。
調査委員会は許可抗告申立人の内部機関ではあったものの、基本事件の原告渡部健もそのメンバーの一人として、その調査に直接関与していた。その原告渡部健が会員代表訴訟を提起し、かつ文書提出命令を申し立てているわけであるが、その訴訟提起自体が、「貸出推移の過程に於いて不祥事的取扱は感じられない」との調査委員会の結論を否定するものである点で、原告渡部健自身が自己矛盾に陥っていると言わざるを得ない。しかも、基本事件甲一号証の報告書には本件稟議書及び意見書の要約が記載されている。原告渡部健ら調査委員会のメンバーは、稟議書及び意見書を子細に検討した上で右の判断を下した。許可抗告申立人としては、そうした調査委員会の結論を尊重してきたわけであるが、原告渡部健が同人自身も既に子細に検討済みの稟議書及び意見書を殊更に公開の法廷に検出せよとの文書提出命令を申し立てていることに対しては、許可抗告申立人及びその会員一般の各利益擁護以外の目的、即ち、役員ポストへの昇進を見送った前理事長である元被告亡淡路儀一への私憤の解消という目的の存在を感じないわけにはいかない。
許可抗告申立人は右調査委員会のメンバーには稟議書及び意見書を全て開示しており、本件融資の適法・違法の判断自体に稟議書及び意見書を使用することを何ら拒んでは来なかった。
許可抗告申立人が苦慮していることは、その稟議書及び意見書が公開の法廷に検出されることによる顧客一般の不安、即ち、それは、会員代表訴訟が提起され裁判所に受理されてしまえば、その内容の正当性とは関係なく、同訴訟の原告とは異なる顧客(会員)への融資に関する稟議書及び意見書が文書提出命令により公開の法廷に検出されることになり、その結果、顧客の固有情報が同顧客の了解なく開かれてしまう不安である。およそ会員代表訴訟の体裁を整えた提訴であれば、稟議書及び意見書は提出命令の対象となってしまうというのであれば、顧客は正確な情報を金融機関に提出することをしなくなる。文書提出命令という情報ディスクローズの思想が、顧客である企業の本当の情報のクローズと虚偽情報のディスクローズを導いてしまうという結果をもたらすとすれば、顧客の固有情報が必ず記載されている稟議書及び意見書の提出命令は極めて慎重に行うべきものと考える。顧客の固有情報保護は、ベンチャー企業を含む弱小企業支援を使命とする信用金庫にとっては生命線とも言える重要なポイントである。また、経営ノウハウの開示については、金融の自由化の中、生き残りを掛けた金融業界としては、充分な必要性に裏付けられた提出命令でない限り、裁判所への信頼を失うことになりかねない。
許可抗告申立人は、稟議書及び意見書には本件融資に関して違法性を基礎付ける事実が記載されているとは考えておらず、むしろ基本事件の事実認定に関しては稟議書及び意見書の記載を考慮いただきたいとすら考えるが、その開示が、顧客一般の右不安を助長するおそれがある以上、そのおそれを払拭し、ひいては許可抗告申立人の営業上の損害発生を防止できる慎重な手続きの必要性を強く主張したい。
許可抗告申立人は、基本事件においては甲号証及び乙号証ともに膨大な証拠が提出されており、さらに、何よりも、顧客の固有情報と許可抗告申立人の経営ノウハウを省いたところの、稟議書及び意見書の要約を記した甲一号証の報告書が提出されている以上、敢えて右の二つの危険を犯してまで稟議書及び意見書そのものの提出を命ずべきではないと考えている。
(添付書類省略)